2018年7月6日、民法の相続編が改正されました。これは、配偶者の法定相続分が3分の1から2分の1に引き上げられ、寄与分の制度が新設され、兄弟姉妹の代襲相続を一代限りとした昭和55年の改正から、実に40年ぶりの大幅な改正です。
今回の改正で、新たに配偶者居住権という権利が創設されました(民法1028条)。
配偶者居住権の保護として、①短期居住権(民法1037条)と②長期居住権(民法1030条)が認められるようになります。
①については、遺産分割の話し合いが成立した時か、相続開始の時から6か月が経過する日のいずれか遅い日まで、認められます。
②については、遺言、遺産分割の話し合い、家庭裁判所の調停・審判で認められた場合は、原則としては終身(亡くなるまで)ですが、別段の定めをすることもできるようになりました。
今回の改正で見直された点は以下のとおりです。
①配偶者保護のための方策
②仮払い制度の創設
③一部分割
④遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲
①については、婚姻期間が20年以上の夫婦間での自宅の贈与は特別受益の持戻しが免除になりました(民法903条4項)。
②については、「預貯金の3分の1× 法定相続分」までの仮払いが単独で認められるようになりました(民法909条の2)。
③については、遺産分割の協議にあたり、遺産の全部又は一部の分割をすることができることを明示しました(民法907条1項)。
④については、遺産分割前に財産が処分された場合であっても、相続人全員の合意の下に、遺産の分割時に遺産が存在するものとみなして、協議ができることを明文化しました(民法906条の2)。
今回の改正で見直された点は以下の4点です。
①自筆証書の方式緩和(民法968条)
②自筆証書遺言の保管制度の創設(遺言書保管法)
③遺贈の担保責任(民法998条)
④遺言執行者の権限の明確化(民法1012条など)
①については、財産目録を添付する場合に、本文は自書が必要ですが、財産目録についてはワープロで作成することができるようになりました。(2019年1月13日以降)
②については、法務局で自筆証書遺言の原本を保管する制度が始まります。法務局で保管してもらう遺言書については検認の手続が不要になります。(2020年7月10日~)
③については、遺贈義務者は、相続開始時の状態のままで、遺贈の目的物を引き渡す義務があることを明文化しました。
④については、これまで不十分であった遺言執行者の権限が明確になりました(民法1012条、1013条、1015条、1016条)。
今回の改正で見直された点は以下のとおりです。
①遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し
②遺留分の算定方法の見直し
③裁判所が金銭を直ちに準備できない受遺者又は受贈者に相当の期限を許与することができる
①については、遺留分侵害額の請求は、金銭によって支払われると改められました(民法1046条)。この規定により、遺留分減殺請求による物権的な効力は否定されることになります。
②については、これまで無限定に特別受益として相続財産に組み込まれていたものを、事業承継の必要性も配慮して、相続人への贈与は10年、相続人以外の贈与は1年以内とし、遺留分算定の基礎となる財産に制限を加えることになります(民法1044条)。
③については、相続財産の大半が不動産である受遺者に対して、家庭裁判所の審判を通して配慮するようになります。
今回の改正で見直された点は以下のとおりです。
①権利の承継(相続登記・預貯金債権)
②義務の承継
③遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果
①については、相続による登記の場合、自己の法定相続分を超える部分について、登記を備えなければ、第三者に対抗することはできなくなります(民法899条の2①)。従前の判例の考え方によると、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言があった場合は、遺産分割の方法が指定されたものとして、登記をしていなくても第三者に対抗することができました。改正法では、登記をしていないと、自己の法定相続分を超える部分については、第三者に対抗することはできなくなります。
②については、遺言による相続分の指定があっても、相続債権者は、原則として、法定相続分割合に応じた請求が可能となりました(民法902条の2)。例外的に、相続債権者が指定相続分に応じた請求を指定相続人にした場合には、その申出に従うことになります。
③については、遺言執行者がある場合は、相続人は、遺言の執行を妨げる行為をすることができず(民法1013条①)、この規定に違反した行為は無効となります(民法1013条②)。
また、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる(民法1012条②)とされ、遺言執行者の権限が明確になりました。
今回の改正で相続人以外の親族に対しても、特別な寄与が認められるようになります(民法1050条)。これまでは、亡くなった長男の妻にいかに貢献があっても救われなかったのですが、今後は特別な寄与があれば、救済される途ができました。
つまり、遺産分割の手続は現行法と変わらないのですが、相続人に対して、相続人以外の親族(特別寄与者)が「特別寄与料」の支払を求めることができるようになります。
2018年7月6日に法律は成立し、同年7月13日に公布されました。施行時期(効力が発生する時期)は、原則的には、2019年7月1日ですが、自筆証書遺言の方式の緩和については、2019年1月13日から始まっています。また、配偶者居住権については、2020年4月1日から始まりました。法務局での自筆証書遺言の保管については、2020年7月10日よりスタートしています。